ウェブアクセシビリティの基礎知識について解説

 

障害者差別解消法の改正もきっかけの一つとなり、ウェブアクセシビリティへの対応が注目されています。ウェブサイトのリニューアルを検討している場合、ウェブアクセシビリティもリニューアルの要件に入れるため、ウェブアクセシビリティの基礎知識について知っておきたい方も多いのではないでしょうか。本記事では、ウェブアクセシビリティとは何か、対応のメリットやウェブアクセシビリティについてのガイドライン・規格、具体例などについて解説します。

この記事のポイント

  • ウェブアクセシビリティは、様々なユーザーがウェブサイトの情報やサービスを支障なく利用できること
  • ウェブアクセシビリティ対応により、ユーザビリティの向上やSEO効果などのメリットもある
  • ウェブアクセシビリティ対応において、ガイドラインや規格を把握することが重要
  • 具体的な対策の代表例として、テキストや背景の色、文字の大きさや画面操作方法などの工夫がある

ウェブアクセシビリティとは

ウェブアクセシビリティとは、障害者や高齢者を含めた様々なユーザーがウェブサイトで発信されている情報やサービスを支障なく利用できることを表す用語です。
総務省では、ウェブアクセシビリティを以下のように定義しています。


ウェブアクセシビリティとは、高齢者や障害者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できることを意味します。

 

引用元:公的機関に求められるホームページ等のアクセシビリティ対応 総務省

そもそもアクセシビリティは、アクセスするなどという意味の「Access」と、能力やできることを表す「Ability」を組み合わせた造語で、「アクセスのしやすさ」を表現しています。これを、ウェブコンテンツに当てはめたものが「ウェブアクセシビリティ」です。


ウェブアクセシビリティへの配慮がされていないと、一部の人に不自由や不利益を与えてしまう可能性があります。たとえば、Webサイト上での重要な手続きができない、あるいは災害時の情報が取得できないなどが考えられるでしょう。ウェブアクセシビリティに配慮することで、ユーザーの環境や条件、制約に関わらず、Webサイトから発信する情報方法を適切に届けることに繋がるのです。


ウェブアクセシビリティ対応は2024年4月に施行された改正障害者差別解消法では「環境の整備」にあたり、努力義務とされています。


義務規定と異なり、対応しなくても罰則がないため、企業にとっては今対応すべきか要否に迷いそうですが、「【2024年改正法施行】企業Web担当者は、"努力義務"のウェブアクセシビリティにどう向き合うべきか」にて解説していますので、あわせてご覧ください。


また、アクセシビリティに似た用語に、「ユーザビリティ」や「ユニバーサルデザイン」があります。ウェブアクセシビリティの基本を確認するにあたって、まずこれら用語の違いから押さえておくとよいでしょう。
 

アクセシビリティとユーザビリティの違い

アクセシビリティは「利用できない人を減らす」ことを目的としており、「障害者や高齢者など広い範囲の様々な人」を対象にしています。一方ユーザビリティは、様々な人が利用できることを前提に、製品やサービスを「使いやすくする」ことを目的とし、その対象は「特定の人や状況での利用者」です。


つまり、ユーザビリティはアクセシビリティという考え方の中に含まれるものであり、その目的と対象者に違いがあるということです。

アクセシビリティとユニバーサルデザインの違い

アクセシビリティとユニバーサルデザインは、双方ともに「製品やサービスを多くの人が利用できるようにする」考え方です。その違いは、アクセシビリティは「様々なユーザーが利用できる状態(利用のしやすさ)」を表すのに対し、ユニバーサルデザインは「使いやすくするためにはどうすればよいか」という考え方、あるいはデザインそのものを指す言葉です。


製品やサービスが、「どの程度使いやすいか?」を考える場合は、その程度をアクセシビリティで測ります。「ユニバーサルデザインを取り入れていれば、アクセシビリティが高まる」、という表現で両者の違いがわかりやすくなるでしょう。

ウェブアクセシビリティの向上が多様なユーザーや幅広い利用状況でウェブコンテンツ利用を可能にする

ウェブアクセシビリティを向上させることで、主に以下のような方にも情報やサービスを届けることができるようになるでしょう。

 

 

  • 視覚障害のある人
  • 聴覚障害のある人
  • 視覚と聴覚の両方に障害がある人(盲ろう)
  • 上肢障害のある人
  • 発達障害のある人
  • 学習障害のある人
  • 知的障害のある人
  • 色覚特性のある人
  • 高齢者

 

例えば、視覚障害によりウェブサイトの画面を見ることができないユーザーは、スクリーンリーダーと呼ばれるツールでウェブサイトを「聴いて」理解します。スクリーンリーダーの特性を踏まえたサイト構築がされないと、無用・無意味な読み上げや、操作上の不自由を発生させてしまいますが、健常者の視点に立ったままではそれに気づくことは難しいでしょう。


このように、ウェブアクセシビリティ対応は、自分とは異なる利用状況下にある幅広いユーザーへ情報を提供するための便利な手段として活用できるのです。

ウェブアクセシビリティに対応するメリット

ウェブアクセシビリティへの対応は、自社のウェブサイトをより多くのユーザーに利用してもらうために欠かせません。また、ユーザビリティの向上やSEO効果なども期待できます。ここでは、ウェブアクセシビリティ対応によるメリットについて見ていきましょう。

ユーザーとウェブサイトの障壁を取り除く

ウェブアクセシビリティ対応により、ウェブサイトとユーザーの間にある障壁を取り除けることが最大のメリットだといえます。例えば、テキストの見え方への配慮や音声による補助を施してあるウェブサイトでは、視覚や聴覚に障害を持つユーザーが情報を得やすくなります。また、ボタンの大きさや配置などの配慮があるウェブサイトは、操作性が向上するため高齢者や特定のデバイスを使うユーザーにとって使いやすくなります。ウェブアクセシビリティは、様々な理由で直面するウェブサイトの障壁を取り除けるため、多くの人がストレスなく情報取得やサービス利用を可能にします。

ユーザビリティの向上

ウェブアクセシビリティ対応により、ユーザビリティも向上させることができます。ウェブアクセシビリティへの対応は、障害を持つ方や高齢者への配慮にとどまらず、健常者も含めたすべてのユーザーにとって使いやすいウェブサイト作りです。例えば、テキストと背景のコントラストを読みやすい塩梅で設定したり、リンクを分かりやすく配置したりすることは、使いやすさを追求するユーザビリティであり、ウェブアクセシビリティ対応の一環だといえます。

SEO的な効果あり

ウェブアクセシビリティ対応は、検索エンジン最適化にも有効であり、これはSEOの効果も期待できます。例えば、見出しタグの適切な設定、画像への代替テキスト適用などは、検索エンジンがコンテンツを評価するために役立ちます。このような配慮は、検索エンジンのアルゴリズムに良い評価をされやすく、結果、検索順位の向上につながるでしょう。また、検索上位に表示されたウェブサイトはユーザーの目に触れる機会も増えるため、幅広いユーザーに利用してもらえるサイトになります。

ウェブアクセシビリティのガイドラインと規格

ウェブアクセシビリティ対応の基準となるものには、ガイドラインの「WCAG」とJIS規格の「JIS X 8341-3」があります。ここでは、ウェブアクセシビリティを知る上で重要なそれらの概要についてみていきましょう。

WCAG

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)とは、W3C(World Wide Web Consortium)で策定された国際的なウェブアクセシビリティガイドラインのことです。ウェブサイトやコンテンツの構成を設計するにあたり、アクセシビリティをどのように確保するかという基準を定めています。例えば、適合レベルを「A(エー)」「AA(ダブルエー)」「AAA(トリプルエー)」に分類するなどのアクセシビリティ要件定義があります。


日本国内においては、WCAGが定めるアクセシビリティ基準を、WAIC(Web Accessibility Infrastructure Committee:Webアクセシビリティ基盤委員会)が推進しており、ガイドラインの普及を進めています。


ここで解説したガイドラインや組織をまとめると、以下のようになります。

 

 

JIS X 8341-3(日本国内規格)

JIS X 8341-3は、日本国内におけるウェブアクセシビリティの標準規格です。WCAG をベースに、日本国内のウェブアクセシビリティとして活用できるよう適合させたガイドラインを提供しています。正式名称は「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」で、高齢者や障害者を含むすべての人が利用しやすいウェブコンテンツの基準として活用するものです。例えば、ウェブアクセシビリティ対応した自社のサイトがどの「達成レベル」にあるのかを確認できます。また、JIS X 8341-3の試験結果をもって準拠レベルを公表することが可能です。

ウェブアクセシビリティへの対応手順

ウェブアクセシビリティ対応には、いくつかのステップがあります。ここでは、手順を4つのステップに分けて見ていきましょう。

ステップ1:適合レベルと対応度を決める

ウェブアクセシビリティ対応を始めるには、そのガイドラインや規格を把握し、目標を決める必要があります。
先述の通り、ウェブアクセシビリティにはWCAGによるガイドラインと、JIS規格の「JIS X 8341-3」があります。これらは、日本国内のウェブアクセシビリティを推進するWAICがまとめていますので、参考にするとよいでしょう。
ウェブアクセシビリティの対応基準は、主に「適合レベル」と「対応度」で評価します。適合レベルは「JIS X 8341-3」、対応度は「ガイドライン」で確認可能です。いずれもWAICの公式サイトが参考になります。

 

 


自社が対応する適合レベルと対応度を決めることで、ウェブサイトでどのような点を改善すべきかなどの目標を明確にしましょう。

ステップ2:ウェブアクセシビリティ方針を策定する

次に、自社ウェブサイトのアクセシビリティ方針を策定します。
方針策定では、「アクセシビリティ対応を行う自社サイトの範囲」と「適合レベルの目標設定」を明確にしましょう。


ウェブアクセシビリティ対応の範囲については、一般的にドメインやサブドメインを一つの単位として対応範囲を決めます。適合レベルの目標設定では、決定した対応範囲を「A」「AA」「AAA」の3種類からどのレベルを目指すのかを明確化し、方針として策定します。


適合レベルについては、総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」にて、適合レベルAAへの準拠が推奨されていますので、民間企業としては「適合レベルAA」を目標にしましょう。

ステップ3:ウェブアクセシビリティの試験を行う

策定した方針に沿ってウェブサイトを改良および制作したら、試験を行って評価しましょう。


試験は適合レベルをチェックし、対応度で評価します。例えば、適合レベルAAを目標とした場合は、チェック項目のうち「適合レベルA」の達成基準25項目を達成していること、および「適合レベルAA」の達成基準13項目を達成していることが条件です。


試験に使うチェックリストは、WAICが公表している以下のチェックリスト例を元に作成するとよいでしょう。


JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン(達成基準チェックリストの例) WAIC
 

ステップ4:ウェブアクセシビリティの試験結果をウェブサイトで公開する

試験結果を集計したら、ウェブサイトで公表しましょう。


基本的には、すべての対応度が「準拠」であることが望ましいのですが、「一部準拠」の部分がある場合は、いつまでに対応するかを明示しておくことが大切です。対応度については、以下が基準になります。

 

  • 対応すべきページ全てで達成基準に適合している:準拠
  • 対応すべきページの一部が達成基準に適合していない:一部準拠


適応レベルと評価方法については、『「JIS X 8341-3」とは何か?企業サイトが対応すべき適合レベルと評価方法について解説』もあわせてご覧ください。

ウェブアクセシビリティ具体例

ウェブアクセシビリティは、様々なタイプの障害に対応することが大切です。ここでは、ウェブアクセシビリティの具体例を見ていきましょう。

テキストや背景

テキストに色を付けるときには、文字と背景色のコントラスト比を高くすることで、テキストが読みやすくなります。また、改行やスペースで文章の長さや折り返し位置を調整することも避けましょう。理由は、テキストの読み上げを行う際に正しい読み方ができない可能性があるからです。
ウェブアクセシビリティのコントラスト比については「ウェブアクセシビリティ対応における「コントラスト比」とは?定義や基準、確認方法をわかりやすく紹介」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

画面操作

ウェブサイトは、キーボードだけで操作できるようにするのもポイントの一つです。タブキーを押すことで記事の項目やリンクにフォーカスできれば、マウスを操作できない方でもコンテンツ上を自由に閲覧できるようになります。

画像や写真への代替テキスト

音声読み上げでウェブサイトを閲覧する方に向けては、画像や写真に代替テキスト(alt属性)を付与しておくことで、表示されている画像や写真の情報を聴覚だけで認識することができます。

 

これらは具体例の一部ですが、考え方としては、ウェブサイトを閲覧する方の様々な状況を想定(想像)してコンテンツを作ることが大きなポイントです。
「ウェブアクセシビリティが確保されている状態」の具体例として、政府広報本ラインでは以下のように示されています。
 

☑目が見えなくても情報が伝わること・操作できること。
☑キーボードだけで操作できること。
☑一部の色が区別できなくても得られる情報が欠けないこと。
☑音声コンテンツや動画コンテンツで、音声が聞こえなくても話している内容が分かること。


引用元:ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説! 政府広報オンライン
 

また、ウェブアクセシビリティに関しては、規定やガイドラインが設けられています。その一つが「JIS X 8341-3」とよばれる日本産業規格(JIS)が定める規格です。これには、「適合レベル」という目安が、「A(シングルエー)」や「AA(ダブルエー)」というレベルで定められていますので、ウェブアクセシビリティの取り組みの基準として活用できます。


「JIS X 8341-3」については、「企業サイトが対応すべき適合レベルは?「JIS X 8341-3」における適合レベルの違いと評価方法について解説​​​​​​​」にて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

クラウドCMS「ShareWith」は導入するだけでAA準拠のサイトに

ウェブアクセシビリティ対応には、専門性の高い技術要件の理解や、ガイドライン・規格の把握、それらを適用する時間や手間がかかります。そのため、既存の自社サイトや新規サイトを「適合レベルAA」に準拠させることはハードルが高いと思われる担当者もいるでしょう。ウェブアクセシビリティに対応しても、それを維持しながらサイト運用を行う負担も大きなものです。そこで活用できるのがクラウドCMSの「ShareWith」です。

 

ShareWithは「JIS X 8341-3」規格の適合レベルAAに準拠し、ウェブアクセシビリティ対策を標準実装しているため、導入するだけで自社サイトを「AA準拠」のウェブサイトへリニューアルできるのです。これからウェブアクセシビリティ対応を行う場合には、ShareWithの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


ShareWithのアクセシビリティ対応に関する詳細はこちら

まとめ

ウェブアクセシビリティは、障害者や高齢者など、一人でも多くのユーザーがウェブサイトの情報やサービスを支障なく利用できることを目的にしています。
そのため、ウェブアクセシビリティへの配慮は、様々なユーザーに情報を届ける手段になります。


ユーザビリティの向上やSEO効果などのメリットも踏まえ、自社ウェブサイトのウェブアクセシビリティ向上を図りましょう。