Webサイトリニューアルの要件定義では、CMS機能やデザイン仕様を細かく決める前に、プロジェクトの判断軸をそろえる必要があります。判断軸が曖昧なままでは、関係部門ごとに異なる要望が出て、どの案を優先すべきか決められません。

 

要件定義は、すべての仕様を一度に確定する作業ではありません。社内で決めるべき事項を整理し、制作会社・CMSベンダーの提案を受けながら具体化する事項と分ける作業です。決定事項、仮置き事項、未決事項を見える化することで、合意形成と外部相談を同時に進められます。

結論|Webサイト要件定義で最初に整理すること
背景・目的、現行課題、ターゲット、対象範囲、主要コンテンツ、運用体制、CMS・システム条件、移行・公開条件の8項目です。最初に優先順位と未決事項も明記すると、制作会社から比較可能な提案を受けやすくなります。

この記事のポイント

  • 要件定義は、仕様を決め切る作業ではなく、プロジェクトの判断基準をそろえる作業
  • 現行課題は「情報」「更新」「運用」「システム」に分ける
  • 対象範囲だけでなく、対象外と次フェーズも明記する
  • 機能要件と同じくらい、運用要件・移行要件・非機能要件が重要

Webサイト要件定義とは

Webサイト要件定義とは、リニューアルや新規構築で実現したいこと、守るべき条件、対象範囲、運用方法を整理し、関係者の認識をそろえる工程です。完成後の画面仕様だけではなく、「なぜ行うのか」「誰のためのサイトか」「誰がどのように運用するか」まで含みます。

 

Webサイトでは、企画、コンテンツ、デザイン、CMS、インフラ、セキュリティ、SEO、移行、運用が相互に影響します。たとえば、複数部門で更新する要件があれば、CMSの権限と承認フローが必要です。既存URLを大きく変更するなら、SEO移行とリダイレクトの要件が発生します。要件を分野ごとに分断せず、一つの運営基盤として整理することが重要です。

要件定義を始める前の準備

要件定義を始める前に、以下を準備しておくとスムーズに進めることができます。

 

  • 現行サイトのページ一覧、アクセス解析、問い合わせ・応募データを用意する
  • 現行CMS、サーバー、外部サービス、契約先、保守範囲を確認する
  • 広報、IR、採用、事業部、情報システムなど関係部門へ課題をヒアリングする
  • 経営計画、ブランド方針、採用計画、IR方針など上位方針を確認する
  • 現行サイトの更新作業と承認フローを実際の担当者から聞く
  • 公開希望日と、決算・採用・株主総会など動かしにくい日程を確認する

最初に整理すべき8項目

1. 背景と目的

背景は「現行サイトで何が起きているか」、目的は「リニューアル後にどの状態へ変えたいか」です。目的は、「企業理解を深める」「更新を速くする」のような方向性だけでなく、誰のどの行動を変えるのかまで具体化します。

抽象的な目的

要件定義で使いやすい表現

サイトを分かりやすくしたい

顧客が事業別の製品・サービス情報へ3クリック以内で到達できる構造にする

更新しやすくしたい

広報・IR・採用部門が、制作会社へ依頼せずニュースと定型ページを更新できるようにする

採用を強化したい

職種・勤務地・働き方から求職者が必要な情報へ到達し、応募ページへ進める導線を整える

サイトを安全にしたい

CMS、サーバー、更新権限、承認、バックアップ、障害対応の責任範囲を明確にする

2. 現行サイトの課題

課題は、デザインの好みではなく、原因と影響まで記載します。更新が遅い場合は、CMSが使いにくいのか、承認者が多いのか、原稿収集が遅いのか、制作会社への依頼が必要なのかを分けます。

分類

確認する内容

情報設計

目的のページを見つけにくい、カテゴリが組織都合になっている、重複ページが多い

コンテンツ

事業説明が抽象的、更新されていない、ターゲット別の情報が不足している

CMS・更新性

更新できる範囲が狭い、操作が複雑、制作会社への依頼が多い

運用体制

責任者が不明、承認が属人化、部門間ルールが統一されていない

システム・保守

CMSやプラグインの更新が滞る、障害時の窓口が不明、複数サーバーが分散している

SEO・計測

URLが不統一、タイトル重複、計測設定が不十分、リダイレクト台帳がない

3. ターゲットと主要導線

ターゲットごとに、知りたいこと、現在の課題、訪問経路、到達してほしいページ、最終行動を整理します。ペルソナを細かく作ることより、サイト内で必要な情報と導線を決められる粒度にすることが重要です。

 

4. 対象範囲と対象外

ドメイン、サブドメイン、サイト、言語、ページ種別、フォーム、PDF、外部サービスを一覧にします。「今回は移行しない」「URLのみ維持する」「次フェーズで統合する」といった対象外の扱いも記載します。

 

5. コンテンツと情報設計

新規作成、現状維持、改稿、統合、削除、移管の判断をページ単位で行います。原稿を誰が用意し、誰が確認し、いつまでに確定するかも要件です。原稿制作を制作会社へ依頼する場合は、取材・執筆・校正・撮影の範囲を明記します。

 

6. 運用体制とガバナンス

公開後の担当部門、編集者、承認者、管理者を整理します。更新頻度、承認段階、緊急時の公開、退職・異動時のアカウント管理、操作研修、問い合わせ窓口も含めます。CMSは機能があっても、運用ルールがなければ定着しません。

 

7. CMS・システム条件

ページ作成、ニュース、IR、フォーム、検索、多言語、権限、承認、ログ、外部連携などを整理します。機能名だけでなく、利用者、頻度、対象サイト、必須理由、標準対応か個別対応かを記載すると、過剰要件を防げます。

 

8. 移行・公開・運用条件

ページ、画像、PDF、ニュース、フォーム、URL、メタ情報の移行範囲を決めます。301リダイレクト、SEO評価の引き継ぎ、アクセシビリティ、ブラウザ・端末テスト、セキュリティ審査、公開判定、公開後の監視と修正期間も要件に含めます。

Must/Should/Couldで優先順位を付ける

区分

意味

Must(必須)

満たさない場合は候補にできない

部門別権限、公開承認、既存URLのリダイレクト、セキュリティ審査への対応

Should(重要)

費用・期間とのバランスを見て実現したい

複数サイトの共通管理、サイト内検索の高度化、コンテンツ再利用

Could(将来・任意)

初回公開後の改善や次フェーズでもよい

パーソナライズ、会員機能、海外拠点の全面統合

優先順位には、要望を出した部門だけでなく、プロジェクト全体の目的を基準にします。「誰かが欲しいと言った機能」をすべて必須にすると、利用頻度が低い機能のためにCMSや構築方式が過剰になる場合があります。

社内で決めることと、制作会社へ相談すること

社内で決めること

制作会社・CMSベンダーへ提案を求めること

背景、目的、優先順位

目的を実現する情報設計・導線

対象サイト、対象外、公開希望日

現実的なフェーズ分けとスケジュール

主要ターゲット、必要な情報

ページ構成、テンプレート、コンテンツ表現

運用部門、承認方針、セキュリティ条件

CMSの権限設定、ワークフロー、実装方法

既存契約や移行上の制約

移行手順、リダイレクト、テスト方法

予算レンジ、調達条件

費用配分、標準機能と個別対応の切り分け

要件定義の進め方5ステップ

STEP1:

現行データと課題を収集する。アクセス解析、ページ一覧、運用フロー、契約・システム情報を集めます。

 

STEP2:

関係部門へヒアリングする。要望だけでなく、現在の作業、困りごと、必須の制約を確認します。

 

STEP3:

目的・対象範囲・優先順位を合意する。要望を統合し、プロジェクトとしての判断軸を決めます。

 

STEP4:

要件一覧と未決事項を作る。要件ごとに優先度、担当者、決定期限、確認先を記録します。

 

STEP5:

制作会社・CMSベンダーと具体化する。標準機能、実装方法、費用、リスクを確認して更新します。

Webサイト要件定義チェックリスト

  • リニューアルの目的を一文で説明できる
  • 主要ターゲットと、サイト内で取ってほしい行動が決まっている
  • 現行課題を情報設計・コンテンツ・更新・運用・システムに分けている
  • 対象サイト、対象ページ、対象外、次フェーズが明記されている
  • 新規作成・改稿・移行・削除するコンテンツの方針がある
  • 公開後の編集者、承認者、管理者が整理されている
  • CMS、フォーム、検索、外部連携の必須条件が整理されている
  • セキュリティ、性能、バックアップ、アクセシビリティの条件がある
  • 既存URLとコンテンツ移行の方針がある
  • Must/Should/Couldの優先順位が付いている
  • 決定事項、仮置き事項、未決事項を区別している
  • 未決事項ごとに担当者と決定期限がある

よくある質問

  • Webサイトの要件定義にはどのくらい時間がかかりますか?

    サイト規模と関係部門数によります。小規模でも数週間、大規模・多部門では数か月かかる場合があります。最初からすべてを確定するのではなく、発注前の前提整理と、プロジェクト開始後の詳細化に分けると進めやすくなります。

  • 要件定義書は誰が作成しますか?

    発注側のプロジェクト責任者またはWeb担当者が中心となり、広報、IR、採用、情報システムなどの情報を集約します。専門的なシステム要件は、制作会社・CMSベンダーと共同で作成する方法が一般的です。

  • デザイン要件はどこまで書くべきですか?

    色やレイアウトを細かく指定するより、ブランド方針、与えたい印象、アクセシビリティ、参考サイト、避けたい表現を整理します。具体的な表現は提案余地として残す方が、制作会社の知見を活かせます。

  • 要件が途中で変わった場合はどうしますか?

    変更内容、理由、費用・スケジュールへの影響、承認者を変更管理表に記録します。要件定義書を固定された文書ではなく、合意内容を管理する基準文書として更新します。

まとめ

Webサイト要件定義で重要なのは、細かな機能を大量に並べることではありません。背景と目的、現行課題、ターゲット、対象範囲、コンテンツ、運用体制、CMS・システム条件、移行条件を整理し、優先順位を付けることです。

 

社内で決めるべき判断軸をそろえ、専門的な実現方法は制作会社・CMSベンダーと具体化します。決定事項と未決事項を分けて管理すれば、検討が途中で止まりにくく、比較可能な提案も受けやすくなります。