Webサイトリニューアルの要件定義書は、機能を漏れなく並べるための仕様書ではありません。今回のプロジェクトで何を実現し、どこまでを対象とし、何を今後決めるのかを、関係者が同じ言葉で確認するための文書です。
社内の役員や関係部門は、CMSの細かな機能よりも、「なぜ今リニューアルするのか」「どの課題を解決するのか」「費用と期間はどの程度か」を知りたいものです。一方、制作会社やCMSベンダーは、対象範囲、運用体制、移行条件、必須要件を知る必要があります。読み手が異なるため、冒頭で全体像を示し、その後に詳細を配置する構成が有効です。
結論|要件定義書はどう書けばよい?
最初の1〜2ページに背景、目的、対象範囲、主要な変更点、体制、スケジュール、未決事項をまとめ、その後にターゲット、コンテンツ、運用、機能、非機能、移行の詳細を記載します。決定事項・仮置き事項・未決事項を明確に分けることが重要です。
この記事のポイント
- 要件定義書は、合意形成と外部相談の共通土台として作る
- 冒頭に1枚サマリーを置き、案件の全体像を短時間で理解できるようにする
- 決定事項、仮置き事項、未決事項、提案依頼事項を分けて記載する
- 機能一覧だけでなく、運用体制、コンテンツ、移行、非機能要件を含める
要件定義書には三つの役割があります。第一に、社内の関係者が目的と対象範囲を合意すること。第二に、制作会社やCMSベンダーが案件の前提を理解すること。第三に、プロジェクト途中で要望や判断が変わった際に、当初の合意へ立ち戻れることです。
したがって、要件定義書は一度書いて終わる資料ではありません。検討の進行に合わせて更新し、変更した項目には決定日、決定者、変更理由を残します。最終的には、制作・実装・移行・運用設計の基準文書として利用します。
長い資料を最初から読んでもらうのは難しいため、冒頭にプロジェクトの全体像を置きます。社内説明では、この1枚だけで案件の必要性と判断事項を説明できる状態を目指します。
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項目 |
記載例 |
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背景 |
現行CMSでは更新可能な範囲が限られ、ニュース以外の改修を制作会社へ依頼している。部門別サイトも分散し、セキュリティ・保守の責任範囲が複雑になっている。 |
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目的 |
広報・IR・採用部門が安全に日常更新できる体制を整え、企業情報を迅速かつ継続的に発信できる運営基盤へ移行する。 |
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対象範囲 |
コーポレートサイト本体、ニュース、IR、採用情報。英語サイトと会員機能は次フェーズ。 |
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主要な変更点 |
情報設計の見直し、CMS刷新、部門別権限・承認フロー、レスポンシブ対応、既存コンテンツ・URL移行。 |
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体制 |
主管:広報。IR・人事・情報システムが要件確認。最終承認:経営企画担当役員。 |
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希望時期 |
20XX年X月公開。決算発表前の公開を必須とする。 |
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未決事項 |
多言語の範囲、サイト内検索方式、外部フォーム連携、旧CMSの並行稼働期間。 |
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章 |
主な内容 |
読み手が確認すること |
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1. プロジェクト概要 |
案件名、背景、目的、成功条件、前提 |
なぜ行うのか |
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2. 現状と課題 |
現行サイト、CMS、運用、アクセス、保守の課題 |
何を変えるのか |
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3. ターゲット・方針 |
主要ターゲット、導線、コンテンツ・デザイン方針 |
誰へ何を伝えるのか |
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4. 対象範囲 |
対象サイト、ページ、言語、外部サービス、対象外 |
今回はどこまで行うのか |
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5. コンテンツ要件 |
新規・改稿・移行・削除、原稿・撮影・校正の役割 |
何を準備するのか |
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6. 運用要件 |
編集者、承認者、更新頻度、緊急対応、研修 |
公開後に誰が回すのか |
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7. 機能要件 |
CMS、検索、フォーム、ニュース、IR、多言語、連携 |
何ができる必要があるか |
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8. 非機能要件 |
セキュリティ、性能、可用性、バックアップ、アクセシビリティ |
どの品質を守るか |
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9. 移行・公開要件 |
コンテンツ、URL、リダイレクト、テスト、公開手順 |
安全に切り替えられるか |
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10. 体制・スケジュール・予算 |
役割、会議体、マイルストーン、費用前提 |
どう進めるのか |
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11. 決定事項・未決事項 |
状態、担当者、決定期限、提案依頼事項 |
次に何を決めるのか |
背景だけでは、現状への不満の説明で終わります。目的だけでは、理想論になりやすくなります。「現在どのような問題があり、その結果どの業務・ユーザーへ影響が出ており、リニューアル後にどの状態へ変えたいか」を一続きで記載します。
記載例
現状:ページ追加や導線変更を制作会社へ依頼する必要があり、公開まで平均10営業日を要している。
影響:事業情報や採用情報を適切なタイミングで発信できず、部門ごとに独自サイトを開設する原因になっている。
目指す状態:定型ページは担当部門がCMSで作成し、承認後に公開できる体制を整える。共通ルールのもとで複数部門・サイトを管理する。
対象範囲は一覧と境界条件で書く
「コーポレートサイト一式」だけでは、PDF、フォーム、採用システム、IR外部サービス、英語ページが含まれるか判断できません。ドメイン・サブドメイン、ページ種別、言語、機能、データ、外部サービスの単位で一覧にします。対象外の理由と、リンク・デザイン・ログイン連携など最低限の接続条件も記載します。
ターゲットはサイト内の行動まで書く
「顧客」「求職者」といった属性だけでなく、何を探し、どのページへ到達し、最終的に何をしてほしいかを記載します。これにより、サイトマップやCTAの判断基準になります。
運用要件は実際の業務フローで書く
「承認機能が必要」だけでは不十分です。誰が原稿を作り、誰が確認し、誰が公開承認するのか、通常更新と緊急更新でフローが異なるかを記載します。担当者の異動時のアカウント管理、操作研修、問い合わせ窓口も含めます。
機能要件は利用シーンと優先度を付ける
機能名、利用部門、利用頻度、必要な理由、優先度、想定するデータ、標準対応・個別対応の区分を記載します。これにより、候補CMSの機能表を機械的に埋めるのではなく、自社の運用への適合性を評価できます。
非機能要件は確認方法まで書く
「高いセキュリティ」「表示が速い」のような抽象表現では、提案各社の回答がそろいません。対象となるガイドライン、監視、バックアップ、復旧、ログ、性能目標、アクセシビリティの達成水準、テスト方法などを、現時点で分かる範囲で記載します。
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状態 |
意味 |
書き方の例 |
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決定事項 |
関係者の合意があり、提案・設計の前提とする |
本体サイトとIRサイトは今回対象。公開日は20XX年X月末。 |
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仮置き事項 |
現時点の想定で、検証・提案により変更可能 |
承認は部門承認と広報承認の2段階を想定。 |
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未決事項 |
判断材料が不足し、今後決める |
サイト内検索の方式。制作会社から費用・運用を含む提案を求める。 |
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提案依頼事項 |
発注側で方法を決めず、候補各社の知見を求める |
既存ページの統廃合と移行優先順位の付け方を提案してほしい。 |
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分類 |
要件 |
優先度 |
状態 |
確認方法 |
担当・期限 |
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運用 |
広報・IR・採用の編集領域を分け、各部門から公開申請できる |
Must |
決定 |
デモで部門別権限と申請を確認 |
広報 |
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機能 |
ニュースをカテゴリ・年度で絞り込める |
Must |
仮置き |
画面・検索仕様を提案 |
制作会社/設計時 |
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非機能 |
CMS・サーバーの脆弱性対応と更新責任を明確にする |
Must |
未決 |
運用・保守資料で回答 |
情報システム/選定時 |
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移行 |
主要流入URLは原則維持し、変更時は301リダイレクトを設定する |
Must |
決定 |
URL移行台帳とテスト結果 |
Web担当/公開前 |
要件一覧は、本文の補足資料として表計算ソフトで管理する方法も有効です。本文では方針と重要要件を説明し、一覧では個々の要件の状態と進捗を管理します。
- 経営・責任者レビュー:背景、目的、対象範囲、予算、スケジュールを確認する
- 関係部門レビュー:コンテンツ、導線、運用、承認、原稿責任を確認する
- 情報システムレビュー:セキュリティ、アカウント、連携、保守、データ管理を確認する
- 制作会社レビュー:実現方法、前提、未決事項、費用・スケジュールへの影響を確認する
- 更新履歴には、変更日、変更箇所、理由、決定者、影響範囲を記録する
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要件定義書は何ページ必要ですか?
ページ数より、目的・範囲・運用・要件・未決事項が明確であることが重要です。小規模案件では10ページ程度でも成立します。大規模案件では本文と要件一覧・移行台帳を分けると管理しやすくなります。
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PowerPointとWordのどちらで作るべきですか?
社内説明にはPowerPoint、詳細な要件管理にはWordや表計算ソフトが向きます。1枚サマリーをPowerPoint、本文をWord、要件一覧をExcelで管理するなど、目的に応じて分けても構いません。
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未決事項が多い状態で制作会社へ共有してもよいですか?
問題ありません。ただし、未決事項を明記し、提案してほしい内容と、プロジェクト開始後に共同で決める内容を区別します。
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要件定義書とRFPは同じものですか?
異なります。要件定義書は社内合意とプロジェクトの基準文書です。RFPは、その内容を外部向けに整理し、提案範囲・提出方法・評価基準を加えた文書です。
Webサイト要件定義書は、細かな仕様を大量に書く文書ではなく、目的、対象範囲、運用条件、重要要件、未決事項を共有する文書です。冒頭に1枚サマリーを置き、案件全体を短時間で理解できるようにします。
決定事項、仮置き事項、未決事項、提案依頼事項を分ければ、社内承認と制作会社への相談を並行して進められます。要件定義書を固定された完成品ではなく、プロジェクトの判断と合意を記録する基準文書として活用してください。

